「クライシスコミュニケーション」は、まだあまり一般には普及していない言葉です。まず「クライシス」と聞くと、「パニック」と誤訳されそうな風潮もありますが、クライシスの本当の意味は「危機」です。ですから、恐怖や怯え、混乱や恐慌状態を指す「パニック」はその「危機(クライシス)の後に」訪れます。そしてその危機を未然に防ぐ、パニックや恐慌状態を最小限に抑えるために管理をする「危機管理」において、円滑にコミュニケーション(意思・感情・思考を伝達し合うことやその手段)を行うことを、「クライシスコミュニケーション」と言い、危機管理広報や緊急時広報とも呼ばれています。
この「クライシスコミュニケーション」は、普段のニュースや会話などにそうそう出てくるものではありません。ですが、このクライシスコミュニケーションは、実はとても身近で、しかも積極的に活用している、または活用しなければならない、とても重要な活動なのです。事実、クライシスコミュニケーションのセミナーも開かれ、クライシスコミュニケーションの資料作成を代行する企業や、コンサルティングを行う企業も存在します。クライシスコミュニケーションがそれほど大切な活動である理由は、クライシスコミュニケーションを活用するのが、主に企業や法人、行政機関などの団体であり、そのコミュニケーションを行う窓口となるのが企業なら広報や、代表する立場の会長社長を含む役員、行政機関であるならそのトップである市長、知事、あるいは大臣や首相にまで及ぶからであり、コミュニケーションの対象者が、企業行政を含む国民全般であるからです。
このクライシスコミュニケーションは、しばしば危機管理(クライシスマネージメント)と混同されます。危機管理は、「不測の事態」に陥った場合、事前にある程度準備を行い、被害を最小限に抑えるように対処するための政策です。クライシスコミュニケーションは、危機管理によって行われる政策や対策を、一般市民に伝えるための対応の方法のことを言います。不測の事態とは、地震や台風などの天災や、テロや事故、事件などの人災、または不祥事など、被害や損害をもたらす、あらゆる場面が想定されます。天災や国家を揺るがすようなテロであったなら、クライシスコミュニケーションを行うのは主に行政です。一方、事故や事件のクライシスコミュニケーション対応は、企業が行う場合が多くあります。
クライシスコミュニケーションは、企業にとって今や欠かせない活動です。事故や事件は、それが殺人や強盗であった場合は警察=行政機関の担当ですが、事故はたとえ人命に係わり、警察の介入があったとしても、その責任を企業が問われる場合が多くあります。残念ながら殺人事件でも、企業に責任を問われることになってしまう場合もあるのです。殺人は事件です。そこに到るまでには、加害者と被害者の関係に原因の大半が存在しますが、たとえば加害者が被害者のマンションへ侵入し、凶行に及んだ場合、防犯カメラの設置やオートロックの機能など、マンションの管理側である企業の責任が問われ、民事訴訟に発展する可能性も出てきてしまうのです。
事故であるなら尚更です。飛行機が墜落し、人命に係わる問題となったとき、当然ながら飛行機を製造した企業、飛行した航空会社に対する責任の追及は逃れようがありません。エスカレーターやエレベーターの事故も同じです。身近なところでは交通事故がありますが、命に係わる大事までに到らなくても、事故を起こした側が一言、「ブレーキの効きが…」と発言すれば、自動車会社に調査の手が及ぶのは必至です。しかし自動車事故でもエスカレーターの事故でも、企業にまったく責任が無い場合があります。けれどそれでも責められてしまう場合もあるのです。電車の人身事故など典型的ですが、飛び込まれた側の鉄道会社は本来は被害者です。ですがダイヤの乱れによって乗客から責められるのは鉄道会社の人間、要するに駅員さんです。このような場合、企業側がいかに迅速で的確なクライシスコミュニケーションを執るかが、後々の企業の運営に重大な係わりを持ってきます。
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